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大西ワタルのDTM機材メッタ斬り!! Vol.12 -Digidesign Eleven Rack-

2010年1月26日17時38分 in レビュー

宅録してますか?

前回に引き続き、今回も、digidesign社のギターアンプシミュレーター"Eleven Rack"のレポートをしたい。
パワーアンプやスピーカーの特性までもを再現したという本機。前回の予告通りbazooka-studio所有のマーシャルJCM 800と対決する。このテストにあたり、スペシャルゲストの登場となった!来ていただいたのは、超絶早弾きハードロックバンドConcerto Moonの島紀史さん (以下、島さん)。へヴィなリフから高速スゥイープまで、あらゆるテクニックを駆使していただけた。またマーシャルのユーザーとしても深く本物の音を知りつくしたかたで、今回のテストには的確なコメントをいただけること間違いない。



テストは、島さんが最も使い慣れたスタジオであるbazooka-studio EL MUNDOで行った。島さんはこのスタジオで何枚もアルバムを作っているので、モニター環境も慣れているし本音のコメントも聴ける事と思う。ここは一つ、プロならではのコメントを興味深く聞いてみたい。

セッティングは、bazooka-studioのJCM 800 をマーシャル純正キャビネットにつなぎ、マイクにゼンハイザーMD421とシュアーSM57をオンマイクで立てたものと、Eleven Rackを用意し、比較の為に、島さん所有のマーシャル"Vintage Modern"のヘッドもセッティングしてもらった。この3種類をつなぎ換えながら聴き比べる。キャビネットに立てたマイクの位置は実際のレコーディングと全く同じものを再現し、ギターのプレイも実際にCDとなった元のトラックに対して行うという、Pro Tools用語で言えば、CDの為にトラックダウンしたセッションのギターをオフにし、そこに改めて演奏してもらうという、非常に贅沢すぎるくらいのものが実現した。



まずは島さん所有のVintage Modernを接続しサウンドチェック。アルバム通りの音が再現されている事を確認する。マイクはこの時点で、実際のレコーディングで選ばれたMD421に決定。そして次に、ギターをJCM 800につなぎ換え、島さんのサウンドに似せるような方向で調整していく。しかしいくら似せたとはいえ両者のサウンドはやはり別物で、ブッといミドルの芯や奥行きはVintage Modern、中高域がきらびやかで元気のある感じのJCM 800といった感じにはなった。そのJCM 800のセッティングを見ながらEleven Rackのツマミを同じ位置にした状態で、マイクシミュレーターも島さんの「マイクは421にしておいて下さい。本番のレコーディングでも最近は421が多いんですよ」とのオーダーで421のon Axisを選択する。
そこからサウンドをチェックしていくが、音としては悪くないものの似ているかと言われれば正直あまり似ていない…。

本物のアンプというのは経年変化もすれば個体差もある。本来は楽器の音を増幅拡大する装置として開発されたハズのものだが、エレキギターと共にこの世に生を受けた時から、リアルないわゆるアコースティックギターのような音が出るわけもなく、極初期にはペナペナした音色で演奏していたのではないか。時代が進みアンプの出力が上がるにつれて、ペナペナはテケテケとなりギャンギャンになりゾンゾンになった。思うにエレキギターとアンプを合わせて「エレキギターの音」とされて認識されるようになったのはかなり早い時期だったのではないか。そこからかなりの時を経てピエゾピックアップ搭載のアコギである、いわゆる「エレアコ」も登場する事はするが、それですら「エレアコのラインの音」である。アコースティックなニュアンスがかなり再現されるようになったのは90年代に入ってから"アコースティックシミュレーター"なるものが出現してからではないか。
結局のところ何が言いかというと、ギターアンプはすでに楽器であるという事だ。ただの増幅装置として使っているギタリストは皆無だと思う。
すでに楽器なので、製造された時代でも工場のラインでも配線材の質でも作られてから経た時間でも、さらにプレイされてきた音楽によっても一台ごとにサウンドやコンディションが違うのは当然だ。なので、本物のJCM 800と、シミュレーターの800シミュレーションのツマミもマイクも同じようなセッティングにしたところで音色があまり似ていないというのは、シミュレーションが劣っているという事にはならないとだけ言っておこう。シミュレーションを作る時の元となった実物アンプのサウンドが既にバズーカ所有のアンプとは異なる音を出していた可能性があるからだ。

かなり脱線してしまった。ElevenのLead800の音は、bazooka-studio所有のJCM800に比べてハイ上がりで若干の貼りつき感がある。島さんは画面も見ずに耳だけで音を聴きながら「Midを上げてTrebleを下げて、Presensを少し戻して、もっと歪みを下げて」みたいに僕に指示をくれる。それだけでどんどん島さんサウンドになってくるのだが、"AMP"部分のツマミだけでは似せきれない。"AMP"セクションのセッティングが一段落し、"CAB"セクションに進んだところでマイクセッティングをoff Axisにしたところ、グンと雰囲気が似てきた。それまでは正直「やはりシミュレーター臭いというか、実物に近くならないな…」と心のどこかで思っていた。もしかしたらその場にいたみんながそう思っていたのかも知れない。なぜならば島さんのレコーディングを実際に行っているエンジニアが「off axisにしておいてくれ」とオーダーしてきた時にoff axisの設定にした時に誰も異論を挟む人はいなかったからだ。
ちなみにAxisとは"軸"という意味で、ギターアンプのマイキングの場合はスピーカーの中心軸に対してoff、すなわち中心軸を外した位置にマイクを立てるという意味となる。そのようにして録るとハイのキツさが減り、奥行き感が増す。今回はElevenのその状態が、リアルJCM 800により近かった。ちなみにこの時に一通りマイクの種類を聴いてみたのだが、U87のシミュレーションを選んだ時の音を聴いた島さんが
「このマイクって僕のレコーディングで使った事あります?これはかなり好きな感じです」
とおっしゃっていた。僕も同感で、太さのあるヌケ感がgood。数あるギターアンプシミュレーターのU87シミュレーションの中ではたぶん一番良いのではないかと思う。ちなみに、他のギターアンプシミュレーターによくある"マイクの距離"を設定する項目は無い。digidesign社のこだわりだと思われる。これは装備していてくれれば遊べたのにとも思ったが、音づくりの迷いが少なくなるという意味では無くても十分に良い音を出している。

実際に島さんに、バッキングやリフ、ソロ、クリーンのアルペジオなどを演奏してもらい、Vintage Modern、JCN 800、Elevenの3通りでレコーディングして聴き比べてみると確実に音色はどれも違う。クリーン系の方が実物とシミュレーターの違いは少なく感じた。

それでも初めて聴く人でどれがシミュレーターかを当てるのは難しいと思う。島さんのレコーディングを行っているエンジニアから提案があった。全員いったん退席し、その間に僕がプラグインのEQなどを使ってElevenの音を本物のJCM 800に可能な限り近づけたものを作る。その後、みなさんが部屋に戻ってきたところで本物の音とElevenの音を僕が答えを言わずに再生し、どちらが本物かを当ててみようというものだ!。20分後くらい僕が格闘した後にみなさんに戻ってきてもらい、音を聴いてもらった。

結果はなんと、3人中1人のエンジニアをダマす事に成功した!
ノイズがリアルに出ていた事と、レンジの違いによるものだった。プロのエンジニアの3人に1人をダマせたら上出来だろう。



その後もElevenの設定を作りながら色々と話を聞いた。コンパクトエフェクターのシミュレーションも試そうということになった。
島さんに色々とコンパクトエフェクターの画面を見てもらうと
「あ、その緑のやつ、それTUBE SCREAMERですね。僕が使っているのをoffにして聴かせて。あ、これ似てるわ」

オレンジ色のエフェクターを見て
「それフェイザー90ですね。それも似ている。(自身で持ってきたコンパクトのPhaser100と比べながら)これよりもヴァン・ヘイレンみたいだな」

デジタル特有のレイテンシーなどは感じましたか?また音の印象はどうでしたか?
「演奏時の音の遅れのようなものは全く感じないですね。逆にスピード感がありすぎて、そこに違和感を感じました。キャビネットを鳴らした時に出る"後からついてくるような鳴りの感じ"が無い。またミッドの粘りみたいなものはやっぱり無いですね」

「スピード感が速い感じが、マーシャルで言うところの現代的でワイドレンジなキャビネットの"MODEFOUR(もーどふぉー)"を鳴らした感じに近い。もしくは貼りついた感じがMarshallのコンボアンプにも近い」「家で作る人にオススメだと思います」「某アーティストは、ライブでも某アンプシミュレーター使っているらしいし。コンディションを保てるという点では最高ではないでしょうか」

僕が宅録三昧だった頃、夢見ていたのは本物の真空管アンプから立ち昇る熱気のような何かを録る事だった。シミュレーターの何がつまらないって、いつでもどこでも寸分たがわず同じ音が出てしまうところじゃないかと思う。便所で録ってもロサンゼルスで録っても同じ音になる。「この曲は少しエアー感が欲しいからマイクを10cm離そう」といった事も全く出来ない。そして最大の欠点だと思うのが、"プレイがやたらクールになる"。自宅でヘッドフォンつけて、ipodを聴く時と同じ音量でプレイすれば、そりゃそうだろう。誰にも遠慮せずに心行くまで家で演奏してくれるのを止めはしないが、プレイが小さくなることだけはやめて欲しい。(いや、百歩譲って、こま切れのオーディオファイルをつないでくれる時はせめて繋ぎ目にフェード処理をしてくれ。面倒クサイという人は、プロツールスならば編集ウインドウで1本化したいトラックをトリプルクリックしてコマンド+Fだ)。ま、そこが逆に1年後にギターソロの5小節目だけ弾き直すといった事を可能にさせてくれるという意味では便利なのだが。

島さんのコメントは、見方によっては厳しい意見もあったが、そこにはRockという音楽が持つ魂の真実があるように思える。実際に真空管を高い電圧で駆動してキャビネットに大電力をブチ込む事にもちゃんと意味がある。「もっと爆音を」という人々の欲求のなかで、「アンプの出力を増してボリュームを上げてったら音が割れちゃったけどカッコ良い」という進化があった事は前にも述べた。音量を求めていくという過程で、人々はさらなるテンションの高みに行こうとしていたのだ。しかし現在は"エレキギターだから歪んだ音"みたいなところに落ち着いてしまって、たぶんこの楽器は今後何も進化しないだろう。シミュレータだって下手すりゃキーボードの音色を選んでるのと何が違うんだといった感さえある。誰かが、「歪ませすぎたら良くない」といったからあまり歪ませないでおいた方が無難だなとか考える前に、自分しか出せない音を出したら良いと思う。実物のアンプを試せるだけ試すのは、金が莫大にかかるか、店員さんに嫌な顔をされると思うので、Elevenみたいなシミュレーターで実験するのは良いのではないだろうか?これならツマミをどんなに上げてもブッ壊れる心配は皆無だ。

アレンジャーさんなど即戦力が必要な人、買ってよし
有名な(赤いボディの)某機種にも飽きちゃって良いシミュレーターを探している人、買ってよし。

Written by

名前:
大西ワタル
サイト:
http://bazookastudio.com/
最終更新時間:
2013年05月27日20時38分