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旅人のニューアルバム『拝啓、日常』レビュー

2007年6月09日18時15分 in レビュー

拝啓、日常

拝啓、日常

1.17
2.幻想少女
3.モノクロ都市、走行中につき
4.プラシーボ
5.オオカミ少年
6.小さな手
7.スリープヲーク
8.褪せゆく海
9.拝啓、日常
アーティスト名 / 旅人
作品名 / 拝啓、日常
発売日 / 2007年6月09日
品番 / TBBT-1008
定価 / ¥1,500

常々考えることがある。
ギターロック、ギターポップと呼ばれる音楽たちの定義は何なのだろうと。またその線引きはどこでするのだろうと。以前からジャンルなんてものに分けるのはナンセンスだという持論の元、こうしてお粗末ながらレビューなど執筆させてもらっているのだが、漠然と「ギターロックって誰々?」なんて純粋無垢でいて邪悪な質問をされると、しばしば考え込んでしまうことがある。当然パっと思い浮かぶアーティストはいくつかあるんだが、よくよく考えてみると、別に「ロックしてないなぁ」などと余計なロックへの魂が邪魔をしてうまく括ることができない。漠然と、ただ漠然と音楽を聞くそんなテーマを持つことでよりニュートラルなaudioleafでいるということが大切なのだと改めて感じている。

そんな、非常にサラに近い頭で聞くことができた、今回のレビューアーティスト『旅人』そのサウンドはとにかくエネルギッシュで、ブライトで、暖かくてて、ルーズで、少し偏屈。でも総括して歌に引き込まれる。それが僕が旅人というアーティストの楽曲を聴いた率直な感想だった。そしてその歌は、弾力性豊かなしなやかさと、刹那を突きつける少年のようなひたむきさに溢れていて、しかし、凛とした強さをも備えている。だから、単なるだらっとメロディーだけを垂れ流すポップソングに終わっていない。何故なら、そこには自身を表現しようとするブリリアントな熱情と、それを伝える表現力の激しい燃焼劇が感じられるから。つまり、アーティストとしての真摯な純粋さを、彼らはそのややもすると怠惰ともいえるルーズ感に内包している。様々な音楽からのオマージュは感じさせつつも、旅人という一人のアーティストの歌として息づいているのは、その所以なのかもしれない。

そしてそんな旅人の1stフルレングスが発売されるというのだから楽しみでないはずがない。仕事柄早い段階から情報を知りえていた僕に知らされたアルバムタイトルは『拝啓、日常』なるほどそのタイトルから読み取れるものは少なくない。

そもそもアルバムや曲のテーマっていうのは、「宇宙」だとか「世界」だとか「この国が」だとかそんな大層なテーマをくっつけなきゃいけないルールはないし、表現したいことのスケールは面積とは比例しない(笑)。更に言えばよっぽど「日常」というものの中にこそ、人が生きていく上での問題、感情は内包されているように思う。喜び、衝動、焦燥、喪失感と、悲しみ。朧気な不安、危うさ。脆さ。儚さ。いらだち、痛み。逞しさ、したたかさなどなど・・・我々の日常にはこれだけの感情がつきまとっていて、日々変化を続けてる。彼ら旅人の今回のアルバムを一枚通して聞くことでそれらを強く感じることができた。ドラマチックで、アンバランスで、どこか滑稽で、でもそれがあたりまえの日常であり、彼らの等身大の叫びであるんだと。背伸びもしなけりゃ屈んでる訳でもない、ありのままの彼らの全力の『日常』は、逆に僕の心の奥深くにある非日常をも引き起こす程、パワーに溢れ、それでいてなんだか幸福感みたいなものに包まれている気がした。

まず#1「17」には少し驚かされる事になる。そもそもから抱いているバンドとしての旅人のイメージをのっけから覆される。この曲には彼らの偏屈さみたいなものが凝縮されているのかなあと感じる。ストレートというよりは、エッジの立ったビートに変則的な符割でメロディが刺さる。とにかく16で刻まれるドラムのビート、ゴーストノートが非常に気持ちよく耳に入ってくる。良い曲というよりは「カッコイイ曲」といったところ。この曲をアルバムの冒頭に持ってくるあたりが彼ららしいといえばそうなのかもしれない。いさぎよくて、ファンキーで、かっこよくて、バカバカしくて、最高に好きな曲だ。そして流れを失わないままの格好で#2へと突入。#1よりもメロのフックを少し強めにしながら、またしても気持ちの良いビートのボトムを聞かせてくれる。バンドとしての底が非常に深いということがココでもわかる。

そして2曲目までいい意味で裏切ってくれた形となったため3曲目のアプローチに期待を馳せる。すると期待通りの旅人色を#3で奏でてくるあたりはさすがだ。簡単に言えば予定調和なのかもしれない。でもその調和をとってくれることが、リスナーにとって一番気持ちの良いことであり、それにしっかりと返答を返せるタイミングを持つ事が、アーティストとしてのクオリティにも繋がると思う。ここでは素晴らしいタイミングで答えてくれている。#5、#6も同様に旅人スタンダードとも言える、外す事のない確固たる「彼らのサウンド」をしっかりと入れてくる。日常的でありながら所々に、キラーなメロ、刺さる歌詞が散りばめられ、その度にじわじわとのめりこんでいくのが自分でもわかるようだ。

ここまででも充分アルバムとしての完成度にうなずくばかりだったのだが、#7『スチープヲーク』を聞いてそれは間違いだったことに気づく。正直にいって油断していたわけではない。「ガッチリ琴線に触れられちゃうかも」といった心構えはあったつもりだった。それでも涙が出てしまった。止まらなかった。全ての伏線も、日常も巻き込んで、心の内に眠る何かに訴えかけてくる。形容するにはあまりにもスタンダードなバラードなのに、アルバムを通して聞いてきたドラマがあり、クライマックスとも言える段階への心の高まりをあおられ、完全に入ってしまった。音源としてその状況に持っていける力がこの曲には、このアルバムにはあると改めて思わされた。もうこれ以上は説明も要らないと思う。とにかく多くの人がこの音源に出会うことを願う。

旅人が提供してくれた「拝啓、日常」をこれから手にする人達にとって、このアルバムが言葉通り何気ない日々の暮らしの中での1ピースになるとおもう。なんでもない瞬間の一つ一つにオーバーラップし、リンクする、そんなかけがえのない一枚に。

人間の人生や生活がもしドラマだったとしたら、流れてくるBGMはまさしくこんなアルバムなのかもしれない。

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最終更新時間:
2014年05月12日16時39分