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大西ワタルのDTM機材メッタ斬り!! Vol.15 -Focurite ISA One-

2010年5月02日16時36分 in レビュー

今月は地味だが大事な音の入り口、マイクプリアンプを試してみた。

Focurite ISA One(ふぉーかすらいと あいえすえー わん)。

Focusurite社はイギリスの天才設計者、ルパート・ニーヴ氏が設立した会社で、高品質な音響機材を作るメーカーだ。
現在ニーヴ氏はすでにFocusrite社にはいないが、同社の歴史的マイクプリアンプ ISA110などと同じパーツを使って作られた1chのマイク入力と、ライン入力を備えた、正に宅録の為に作られたような機材だ。

各機能を見てみよう。

Input : 左上に2つのインプットレベル調整ツマミがある。左側のツマミは10dB刻みのザックリした調整。右側のツマミは、左側のツマミで決めた値にさらに20dbを無段階で微調整するツマミとなる。

さらに左側ツマミの下に左から
30-60 : 入力ゲインを30dB単位でさらにザックリ切り替える。
+48V : ファンタム電源。コンデンサーマイク使用時にON。
Phase : 位相切り替え。
HPF : ハイパスフィルター。75Hz以下の低域をカットしてくれる。
Insert : 背面のインサート端子を使って、アウトボード(たとえばコンプなど)を使う時にON/OFFするスイッチ。

さらにその下にInput切り替え とZ Inの切り替えボタンがついている。
Z in切り替えとは入力インピーダンスの切り替えであり、
Low : 600Ω ISA110 : 1.4kΩ Mid : 2.4kΩ High : 6.8kΩ となっている。
600Ωは、超低インピーダンスのリボンマイクに向いているらしい。ダイナミックマイクとコンデンサーマイクは、マイクのインピーダンスの10倍の値に設定すると良いとマニュアルに書いてあるが、実際はどの入力インピーダンスに設定しても音は出る。全ての設定を試してみたが、微妙ではあるが確実に音が変わる。耳に自信があれば、音色を聴きながら好みの設定にするのも良いと思う。

中央には大きいVUメーター。VUメーターは見やすいし音量を感覚的に把握できるので重宝するのだが、デジタル入力のDAWに録音する時には結局DAWのメーターを見るので、僕はあまり使わなかった。

その下にライン入力セクション。左から
Z in : フロントパネルDI入力のインピーダンス選択
Gain : フロントパネルDI入力の入力レベル
DI : 楽器を入力するコネクター
Amp : 入力した楽器の音のパラアウト。ここから出した信号をギターアンプなどに送れば、ラインとアンプを同時に録る事が出来る。

さらにその左側にはモニターセクションがあり、レイテンシー(DAWを使ったときに内部演算によって生じる音の遅れ)を回避しながらプレイをする事が出来る。宅録に便利な機能だと思う。しかしモニター用ヘッドフォンミキサー(CUE Box)としての機能は最低限でヘッドフォンのボリュームが調整できるだけだ。DAWから送られてきた音と自分が演奏する音のバランスを手元でとる事が出来ないので、オマケ的機能でしか無いのが残念だ…。
この機種の次に発売される後継機種ではデジタルアウトが標準装備になっているらしいので、DAWにはそのデジタル信号で録音し、アナログアウトとDAWの2MIXアウトを小型ミキサーに立ち上げれば操作性は良くなるだろう。その際、DAWに送ったマイクプリアンプの信号はDAW上ではミュートしておく。


肝心の音だが、今回は実際に歌のレコーディングで使ってみた。
bazooka-studio東中野で、比較したのはAMEK Angelaという卓。このAMEKという会社にも冒頭で書いたルパート・ニーヴ氏が関わっている。


使用マイクはAKG C-414ULS。
AMEK Angela(以下AMEK)の音は中域にパワーがあり、相当ロックな音である。パンチが効いている。入力レベルが高くなってくると歪み感が増えてきて、それがまた良い感じに力強さの表現になる。しかしウルトラハイファイなサウンドには残念ながら向いているとは言えないだろう。

ISA Oneの方は、ハイファイでありながら芯があり、とても音が前に出てくる。変な色付けは全くないが、かといって無味というわけではなく、上質なトランスを使った事でほんのり漂う良い香りがある。スピード感もあり、どんな楽曲に使用してもクオリティ的に不足するという事は全くない。また入力レベルが高くなっても歪み感が無く、一定のトランジェントを保っていて頼もしい。


と両者を比較してみたものの、実際の音色はごく微量な差でしかなかったりする。なぜレコーディングエンジニアはマイクプリという、機種によってはツマミが一つしかついていないような地味な機材にこだわるのだろう。それは現代のレコーディングに残された最後のアナログ領域だからかも知れない。それは言い換えれば人間臭さと言っても良いだろう。芸術というものがそうであるように、人が心から感動できるモノとは統計や平均値や計算から生まれるものではなく、人間が直感で苦労して作ったものなのではないだろうか。マイクプリアンプのように電気信号を増幅するだけの機器にも確実に差が生じてくる。2台のマイクプリアンプがあったとして、そのどちらもが高品質だったとしても、それぞれに向いている楽器や楽曲が全く違う事はままある。また似た様な楽器構成・楽曲だったとしても同じパターンが通用するとも限らない。それはアーティストという人間が違えば、そこから発生する音楽が違うのが当たり前だからで、その僅かなキャラクターを求めてエンジニアは様々なパターンを試す。
分かりやすく言えば、例えばギターのような楽器にしたって手作りの物は高価で、某国工場生産のものは安価だ。一般の人からみたらどちらも同じに見えるかも知れないが、バンドをやっている人なら音を聴けば音の違いは一発でわかると思う。そのように言葉で言い表せない類の品質の高さは実際にマイクプリアンプにも存在するという事だ。音響機器マエストロのルパート・ニーヴ氏は本当にすごい。


この機種を買う人は、安定感があってヌケるハイファイ感が欲しい人だろう。ジャンルは選ばないが、ソフトというよりは骨太な音像を求める人に向いている。

高品質で強い音が欲しい人、買うべし。

Written by

名前:
大西ワタル
サイト:
http://bazookastudio.com/
最終更新時間:
2013年05月27日20時38分