audioleaf WEB MAGAZINE

大西ワタルのDTM機材メッタ斬り!! Vol.17 -HEADPHONE あれこれ-

2010年6月22日22時50分 in レビュー

今回は、プロのレコーディングでも宅録でも不可欠であり、また一般の人が音楽を聴く状況でも重要な役割を果たす機材"ヘッドフォン"についてレポートしたい。

ヘッドフォンの利点は、
どこでもほぼ同じ音で聴く事が出来る
爆音でも(一部機種を除き)まず近所迷惑にならない
といった事があげられる。

宅録でのメリットは
普段iPodなどで音楽を聴く時と同じ土俵で自分の音色をジャッジする事が出来る。
気軽に色んな機種を試せる。
再生音が部屋の音響特性に左右される事が無い。これはプロの現場でも重要で、スタジオの広さというのは低域の振る舞いに直接からんでくる。スピーカーと共にヘッドフォンを併用すれば確実な判断が可能だ。 

今回は5機種をテストしたが、大ざっぱに以下のような点を注意して聴いてみた。

第一印象 : パッと聴き、どう感じたか
帯域バランス : 低域~中域~高域のバランス
分離感 : 各楽器の音はクリアに聴こえるか
装着感 : 長時間装着した時の、耳の感触
録り : プレイヤーとしてのプレイのしやすさ
Mix : 総合的に冷静な判断が下せるか
リスニング : 純粋に音楽を楽しむにはどうか
遮音 : 音漏れの少なさはどうか


SONY CD-900ST

固い音。
超高域は出ていなくはないが、それよりも存在感のある中高域のアタックにマスキングされてる印象。中低域にコモリ感がある。鮮やかさが無い。無駄な余韻が無いので低域の量感は望んではいけない。
低域がタイトで乾きまくっている事により、分離が良い。

モニタースピーカーで言う所のYAMAHA NS-10Mと同じような存在なのだが、NS-10Mはチューニング次第でかなり音色が変化し、リスニングでも使えるようになるが、SCD-900STの場合にはそれは無いと思う。実際、バズーカスタジオでも毎日のように爆音で鳴らされ、落とされ踏んづけられて可哀想なくらいボロボロに酷使されているこのヘッドフォンだが、「エージングが進んで柔い音だなー」などと感じる個体に出会った事が無い。

ちなみに「エージング」とは"Age+ing"で、歳をとらせるって事。女性にとってのアンチエイジングの真逆の言葉。買ったばかりのスピーカーやヘッドフォン、楽器からシールドに至るまでこのエイジングと呼ばれる"慣らし運転"を経ることによって本来の性能が発揮されると言われている。その時間は機種によっても、また人によっても違うようだが、印象が変わる時点が存在する。例えば初めて挑戦するヘッドフォンなども、買った時は初めて聴く音だし良くも悪くも違和感を覚える。だんだん使い込んでるうちに慣れてきて"自分のもの"になるワケだが、この場合はヘッドフォンの音がエイジングによって変わったのか自分の耳が慣れたのか判らない。そこで僕は買った時に一度聴いてみて、その後いきなりエイジング活動を行ってしまう。2~3日後に聴くと明らかに最初とはちがって、こなれてスムーズな音色になっている。これは本来の音色に近づいたためだ。
新しい機材に対して行うエイジングの方法には色々なものがある。市販されているエイジング用のCDを使う人もいればピンクノイズといて全周波数を同じバランスで含むノイズを使う人もいる。またいつも聴いている音楽CDを使う人もいる。僕がスピーカーやヘッドフォンをエージングする場合は、各ジャンルでリファレンスにしている楽曲をプロツールスでモノラルにしたものを10曲くらいと、数分間のピンクノイズをCD-Rに焼いてリピート再生している。モノラルにするのは左右のエイジングに偏りが出るのを防ぐ為だ。

話をSONY CD900STに戻そう。
装着感は、イヤーパッドが固いため耳への密着感が少ない。頭が小さい人だとズレやすいかもしれない。

録りは、分離が良いのでやりやすいと思う。バンド4人せーので爆音を出しても破綻しない。クリックは突き刺さらんばかりに耳を劈く。
MIxも慣れれば出来なくはないが、スピーカーも併用しないと偏った音になると思う。PAN(左右の位置関係)は非常に判りやすい。
リスニング…僕には不可能です…聴き疲れします。
遮音は悪くないし、実際に電車で使っている人もたまに見かけるが、耳との密着が少ないので頭の小さい人は音が漏れるかも。


SONY MDR7506

ミクスチャーバンド・SYNCのメンバー様に借りました。
折りたたみが出来て持ち運びにとても便利。
明るく、低域に弾力があって少しドンシャリ。ズンズンは決してしない。グルーヴ感や音圧感、ある意味コンプ感があって心地よい。
ベースは聴き取りやすいがCD900STより広がり感がある。
中低域のコモリは無い。が、その帯域の情報量も少ない。
中高域がCDR-900STよりも上のほうにある。
CD-900STよりは分離に欠ける。
イアーパッドが柔らかく心地よい。形状も耳に完全にフィットし、最高の装着感。

録りは、初めて使う人にはちょっと分離が悪いか。脚色も若干強いので、実際に出ている音とのギャップがあるかも。特に、声の実在感は薄い。完成品としての2Mixは気持ちが良いが単独の音はリアルさに欠けるかも知れない。

MIxに使うなら、このグルーヴ感・コンプ感をしっかり掴んでからが良いと思う。逆に、このヘッドフォンで気持ち良くなかったら要注意のMix。
リスニングに使うのは大賛成。自宅や通勤電車で使うのには最適。遮音性も高い。もちろん品質はSONYのクオリティ。
いつでもどこでもヘッドフォンで音楽を聴いていたい人にはおすすめ。

AKG K271S

完全密閉式。
小音量での音の立体感はあと一歩。音量を大きくするとパンチが出てくるが決して耳に痛くならない。エージング前はローがボヤける。2日間くらい鳴らしっぱなしにした頃から本来の音になってくるが、ズンズンくるといった方向ではない。中域が少し多めで、スーパーローは少ない。ハイはしっかり出ている。
音圧感は普通。ソフトだが少し詰まった音像。解放感はやはり少ない。へんなコンプ感も無い、というかMixのコンプ感がしっかり再現されている。
分離は悪くないが最高でも無い。ベースとギターはしっかり分離して聴こえるが、ベースのアタックが少ない。エレキギターの中域の密度は高く、良い感じ。
イヤーパッドがまん丸な形状の為、耳の大きい僕には少し違和感がある。
録りは、耳に痛くない音色で悪くないと思います。ボーカルダビングなど、独りで気持ちを盛り上げていく時に良いと思います。バンドでせーのだと、少し判りづらいかも。
Mixに使うのは悪くないと思う。しかしベースが少し広がり気味なので、スピーカーとの併用が必要。
頭から外すと勝手にミュートしてくれます。


AKG K702

完全開放式。この機種もエージング前は低域がボヤけるが3日のエージングでチリバツになった。
低域から高域までフラット。ハイファイでタイト。それゆえ、パンク系などで中域のパンチが欲しいギターの音などは細く感じる人もいると思う。しかしリアルな音色。

音場感の広さが表現され、それでいて分離が良くて繊細。ヘッドフォン自身が図太さとかパンチを演出するような事は無いが、楽曲の持っているエネルギーを冷静に”見る”事が出来る。よく聴こうと思えばいくらでも深く入っていける。音のアタック、リリースがはっきり判る。

装着感は、この機種もイヤーパッドがまん丸なのだが、深さがあるので耳が潰されている感は無い。しかしパッドそのものが固いので、長時間になると疲れる。
録りでは、自宅でラインもののベースやギターを録るくらいなら問題ないだろうが、他のケースだとクリック漏れとかが絶対に出ると思う…なので向いていない。
Mixは慣れれば最高ですが、慣れないとハイファイ感にダマされる。R&B;の超低域は頭蓋骨の中で共振する。

リスニング、最高です。開放型なので音の開放感も最高だが、音漏れも最高。なので自宅限定です。
間違っても通勤電車では使えません。音が外に漏れるし、外の音も聴こえちゃう。ヘッドフォンつけていても普通に会話できます。
僕のリファレンスです。

なお、上記AKG2機種はケーブルがミニXLRコネクタで着脱式になっており、断線のさいもケーブル交換が簡単に出来るのもGood。

SENNHEISER HD650

エンジニアK氏に拝借しました。完全開放式。
ハイファイで、音場の広がりが素晴らしい。迫力を伴って臨場感が迫ってくる。
バランス的には低域が多め。タイトというよりはワイドに聴かせる。
このヘッドフォンも解像度が高く、より深くまで入っていける機種。方向としては重めだが、ロック系のバスドラは埋もれず輪郭が見える。。
低域が好きな人には向いている。低域が膨らむ感じがダメな人には向いていないかも知れない。
装着感はフカフカで高級なソファーのようで最高。

録りに使うと、やはり音漏れが気になるでしょう。
Mixは、慣れれば最高でしょう。しかしこの機種も、このワイドな高級感にダマされないように注意したいです。
リスニングには最高でしょう。しかしやはり開放式なので、電車では使えません。


おまけ
Apple iPod標準イヤホン

相当使い込まれてエージングが進んだ個体

中高域(1.5~2.5kHz)が多い
分離は悪くないが低域は少ない。キックの余韻、R&B;の超低域ベースの共鳴などは再現できない。音程としては聴こえるが質感までは判らない。爆音にすると歪んでしまう。
装着感は、インナーイヤー型ではないので若干ゆるく感じる。指で耳に押し付けると音色が変わり、良い感じになった。この辺の不確定性がまた問題かとも思う。

録りでは外の音が聴こえそう。また質感、楽器の音色の減衰のニュアンスなどは聴きとりづらいと思う。
Mixでは、一般人が聴く環境として、たとえばレコーディングスタジオでもラジカセでチェックするのと同じ意味で使用したい。低域が少ない機種だとは言え、このイヤフォンにしたとたんベースが全く聴こえなくなったりしたらそれはMixに問題がある事になる。
リスニングでは、最高の音質とは言い難いが、多くの人がコレで聴いているのも確か。個人的にはみんなにもっと良い音で聴いて欲しいが…。
遮音はあまり良くないだろう。電車で爆音で聴いている人からはシッカリ音漏れしているのを、みなさんも体験した事があると思う。


以上、計6機種をチェックしてきたが、宅録においてヘッドフォン無しという選択肢はもはや無いと思う。例えばMixに必要となるしっかりしたモニタースピーカーは、高価な上、ある程度の音量を鳴らす必要がある。独り暮らし1Kの部屋で"ある程度モニターがちゃんと鳴る音量を出す"事が可能なケースは皆無だろう。小音量だとしてもスピーカーを使用する事は大事だが、ヘッドフォンを併用する事によって自宅でのMix作業は磐石なものとなる。最初にも述べたがヘッドフォンならではの"ルームアコースティックに左右されない"といった利点もあるため、積極的に活用していきたい。

今回チェックした機種は決して安くは無い。が、プロがモニターとして使うレベルとして不足無いものをセレクトした(iPod付属イヤホンは除く)。どれも長年の使用に耐えうる機種であるし、自分の体の一部にしてしまえば強力な武器となる。そしてもちろん高級なモニタースピーカーよりはずっと価格設定も低い。なので臆せずに店頭などでどんどん試してみて欲しい。最終的には自分が好きか嫌いかという点も重要だからである。キャラクター違いで数機種持つというのも楽しいかもしれない。
プレイヤーとしての演奏のしやすさや、デモを録る時のモニターに適しているのはSONYの2機種かAKG K271、
Mixだけに的を絞るならばAKG K702かSENNHEISER HD650を薦める。

こればかりは、出来れば店で聴いて買うべし。

Written by

名前:
大西ワタル
サイト:
http://bazookastudio.com/
最終更新時間:
2013年05月27日20時38分