audioleaf WEB MAGAZINE

No.13・みっくちゅ・その2

2010年7月01日13時03分 in コラム



さて、続いてはベーシックの音作りに対して、もうちょっと"演出"の分野に入る部分。

この"風の唄"、静かなA~Bメロと大らかなサビ、という展開なのだが、ミックスにも当然そのコンセプトは反映されるべき。具体的に言えば、オレのこの曲のドラムのコンセプトは"静と動"。
具体的に言うと、A~Bメロではルーム感/立体感を聴かせ、サビはタイトにパワー感を感じさせたい。
で、まずドラマー本人がレコーディングの段階でそれを理解出来ていることが必須。逆のパターンで叩かれちゃったらオシマイ。今回は打ち込みデモの段階でそんなに細かく作り込まず、プリプロもなしなので本番でドラマーの長田ちゃんに「.....ちゅう感じで」とお願いし、実際に思い通りのドラミングを頂けた。
で、それを"より大袈裟に"表現するのがミックスの肝。「もう既にアレンジがそうなっているから充分」ってのも正論だけど、実はその"ドラマーの気持ち"の部分をミックスでちょっと強調してあげると楽曲のクオリティもグンと上がる。
では今回の"風の唄"でオレが演出効果に使うパターンをいくつかご紹介。具体的には前回予告した通り"オートメーション"のお仕事だ。

まず、ドラム全体のフェーダー・バランスが決まった後、1コーラス目のA~Bメロ/つまりドラムの導入部分からサビ直前までのアンビエント・トラックをやや上げ、ハイ・ハットのオープンが壁にぶつかって返って来るのが聴こえるくらいにする。つまり、部屋鳴り感の強調。


一番下がアンビエント・トラック。ドラム・キット全体のマスター・フェーダー手前で、A~Bメロが-1.0dB、サビからは-5.0dBになる

これ、もうちょっと具体的に言うと壁にはね返って戻って来たハイ・ハットの"プリ・ディレイ感"が、丁度16分音符くらいに感じられるとベスト。って、かそれが狙い。ここはギターもベースもミュートの8分刻み、その中でドラムが始まると若干"裏"が感じられる、という流れにしたかったんだ。でもそれはディレイやリバーヴの仕事ではなく、あくまでもドラマー本人が自分の身体で取ってる16分でありたかった。しかも1コーラス目はまだスネアが鳴らないので、裏を聴かせるには丁度良いパートなんだな。


オートメーションなし

A~Bのアンビエント・トラックが-1.0dBに強調されているミックス


さて続いては2コーラス目。こっちは既に1度サビを聴いたあとで、しかもドラム・アレンジも1コーラス目と違い、スネアも入った8ビート。
2A~Bのアンビエント・トラックのヴォリュームは-2.5dB、つまり1コーラス目に比べるとちょっと控え目。理由はここではドラム・キット全体が鳴っているのでスネアの"ゴースト"が取りやすく、1コーラス目ほどルーミーじゃなくても充分だから。
その代わり、ちょっと面白いこともやってみてるんだ。

スネア全体にゲートが入ってて、アタックを強調してるってのは前回書いたけど、実は2コーラス目のA~Bメロだけ少々ゲートのセッティングを変えてみた。
曲全体のゲートのホールド・タイム(つまり鳴っている時間)を180msに設定、これで「タ~ン」って鳴ってたスネアは「タン!」という聴こえになる。それは全体のテンポ(125)に対して16分感を優先させた数字。で、ゆったりとした2A~Bでは、ホールド・タイムを300msに設定した。
こうすることでタイトさよりもルーズさが強調されて、サビの16分感に対して8分感をキープすることが出来る。ついでに、長田ちゃんがけっこうスネアにゴーストを入れてくれてるんだけど、あまり聴こえ過ぎるとクドくなるので、スネアのオン・マイクではゴーストはゲートでカットし、他のトラックで鳴っているスナッピーの質感だけで聴かせるようにしてみた。「ドン、タンスタ、ドン」だったのを「ドン、タンサラ、ドン」にする感じ(笑)。そうすることで曲のコンセプトの"風"の柔らかさを感じさせたいワケだ。


赤いスネア・トラック、オートメーションはゲートのホールド・タイム。1サビが終わって長くなり、3サビで再びタイトに


2A~B、オートメーションなし

スネアのゴースト感をゲートでコントロールしたミックス

さて、続いてはこの曲のドラム・トラックでオートメーションが最も忙しいところ。それはギターソロ終わりから3サビまでの、所謂"Cメロ"にあたる部分。
何故ここでオートメーションが必要かというと、それは4本のSM58だけで録ってるからで、本当なら必要ナイ部分。で、オートメーションが必要なのは主にタム類。
曲中ではさほどタムを多用していない長田ちゃんだけど、ここはけっこうタム回してちょーだい的なリクエストもあって、んでせっかくだからちょっと左右にタムの流れもハッキリと聴かせたいパート。で、当然タムのオン・マイクなんかなく、あるのはLとRの2本のトップ・マイクのトラックだけ。なのでアタックの瞬間を上げ、戻し、を繰り返す。これはヘッドホンでけっこうシビアにやった方が良い。速いパッセージだったりすると当然叩くヴォリュームも下がったり、まだ鳴ってる2拍前のクラッシュが急に大きくなっちゃったり、と難しい所。で、最後のブレイクに向けてはちょっと大袈裟にレベルを持ちあげて.....んでブレイクで瞬間ミュート!。ミュートの直前までドラム・キット全体のリバーヴ感を深めにするのも"突然ミュート感"を強調するには良い方法。




Cメロのドラム・パート全体。タム類はオートメーションによってクッキリと聴かせ、リバーヴもここだけは深めに。サビ直前のブレイクではドラム・キット全体のマスターをミュート。今回のミックスではその直前に一瞬だけ"リバース・シンバル・トラック"が登場し、"突然ミュート感"を煽る(アザトイ/笑)


オートメーションなし

過剰演出完了(笑)

.....さて、こうしてドラム・トラック全体の演出を部分的に紹介して来たけど、肝心なのはこれが楽曲全体の中での、ほんの小さな役割だということ。だから当然、他のパートも含めて全体のバランスや質感をコントロールしながら、ちょこまかと微調整して行かなくてはいけない。でも、ドラム・キットはバンド・サウンドの基本なので、ミックス中の大きな路線変更は致命的。でも、ドラムの演出が決まればあとは速いよ。オレ達プロだって、だいたいドラムの質感決めるのに全時間の三分の一くらいは使う。そのくらい重要なのがドラム・サウンド、ってこと。


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最終更新時間:
2011年10月04日21時52分