audioleaf WEB MAGAZINE

No.15・ライヴ盤考察

2010年12月15日20時34分 in コラム

お久しぶりですが、今回はHN・Yさんからの質問メールをひとつご紹介。

DEEP PURPLEのLIVE IN JAPANのレコーディングでOTARIのMX5050シリーズをレコーダーとして使用したそうなんですが、ある雑誌で、ツアーに同行した日本人スタッフのインタビューで8トラックのみで録られたとおっしゃっていました。これって現実的な話なのでしょうか?
それとも演奏とマーティン・バーチのエンジニアリングが良かったのが一番でかいので しょうか?


さて、何のことやらと思ってる人が殆どだと思うので簡単に説明すると、"Deep Purple Live In Japan"っちゅうのは、ロック史に残る名曲"Highway Star"や"Smoke On The Water"なんかで有名なイギリスのハード・ロック・バンド、ディープ・パープルの1972年の来日公演を収めた2枚組のライヴ盤。このアルバムの成功で、'70年代当時は極東の島国の"ブドーカン"っていう神聖な場所でのライヴのレスポンス/ライヴ盤の売れ行きが欧州のロック・バンドのステイタスになるような前例が出来た、といっても過言ではなかったんだな。これを機に有名アーティスト/バンドがこぞって"ライヴ・イン・ジャパン"をリリースして行くようになった。
特にこのアルバムは日本のハード・ロック人気の爆発にも繋がり、高度経済成長真っ只中の日本が音楽的に大きなマーケットとなるきっかけとなった名作なんだ。もちろんオレも擦り切れるほど聴き込んでギターをコピーしまくったよ!。Deep Purpleのギタリストのリッチー・ブラックモアという人は、オレのフェイバリット・ミュージシャンのひとり。トレード・マークのフェンダー・ストラトキャスターを抱え、速弾きするわステージ上でギター破壊するわの大暴れ、それに憧れて学生時代はコピバンも演ってた。言わばオレというミュージシャンのルーツでもあるバンドでありアルバム。
で、実はこのライヴ盤はオレが"ステレオ定位"というものを初めて意識した作品でもあるんだ。今回はちょっとそこんとこを詳しく話そう。



この"Deep Purple Live In Japan"、まずはアルバム・ジャケットを御覧頂きたい。ちょうど武道館のステージをミュージシャンの後方から、つまり客席方向を観たアングル。.....凄いでしょ、昔の日本のオーディエンスは皆きちんと椅子に座って演奏(もちろんハード・ロック)を聴いてたんだ!。でもバンド側には「日本のファンは礼儀正しい」と好評だった。で、アンコールの頃には客席総立ち、みたいなね。で、実はこのライヴ盤のステレオ定位がこのジャケット目線.....いや"耳"線。左Chにギター、右Chにキーボード、とバッツリ分かれた定位。

Deep Purple "Live In Japan"(1972)

通常、特にギター・ロック・バンド系のスタンダードなパンニングはオーディエンス目線のドラム(HHが右/Rideが左、タムが小さい方から右~左へ流れる)、バッキング・ギターが左右ダブル・トラック、ベース/ヴォーカル/リードなどがセンター、というもの。圧倒的に支持されてるこのスタイルをオレも継承、その立体感と音圧感はステレオ作品のレンジとロックのパワーを伝えるには最高のやり方と言える。
が、もちろんミキシング黎明期の昔からそれがスタンダードだったワケじゃない。何しろ'60年代まではステレオっちゅう概念自体がないし、前述のような形はせいぜい'70年代から、と言って良い。だいたい元々は"1発録り"が基本、ギタリストがバッキングを2回弾くなんてむしろ不自然。
.....で、質問メールの中に名前が出て来るマーティン・バーチ。実はこの人はハード・ロック/ヘヴィメタル系の超凄腕プロデューサー。オレがいつもエンジニアとミュージシャンを両立させたBOSTONというバンドのギタリスト、トム・ショルツを尊敬してると言ってるけど、純粋なサウンド・プロデューサーとしてオレが最も尊敬するのがこの人。手掛けたアーティストがDeep Purple、Rainbow、Black Sabbath、Iron Maiden.....などと言えば名前を知らない人でも納得するだろう。
このバーチのサウンドの特徴は、全体的な印象がハイファイでありながらミドル・レンジにパワーがあり、全部の楽器/パートに独特の立体感が出てるところ。リバーヴのセンスも絶妙で、ヘッドホン聴きの際には各パートの隙間にモノ凄い緊張感を感じるんだ。30年以上前の作品を21世紀の今聴いても全然色あせない、むしろ今でもお手本になるような作品ばかりを世に送り出して来た人。

名プロデューサー、マーティン・バーチ

そのマーティン・バーチが手掛けた最高の作品のひとつがこの"Deep Purple Live In Japan"なワケ。で、質問メールには「8trのレコーダーで録られたとの証言がある」とある。オレはこのハナシは知らないので真意のほどは解らないが、'70年代初頭の時期の"可能性"として考えるのであればそいつは充分にあり得るハナシだと思う。
ま、ハッキリ言っちゃえばライヴ録音のために16trや当時まだ珍しい24trレコーダーが導入される方が逆にあり得ない。大抵は持ち運びも楽な8trオープンリール・テープ・レコーダーをツアー中持ち歩き、ドラム/ベースをまとめて2mixに、オーディエンスL-Rの4Trにせいぜいヴォーカル、ギターなどがパラで録られてた程度の筈。今みたいにP.A.ミキサーのダイレクト・アウトから各マイクごとにマルチ・トラックで録音、なんてことは考えもしない(ってか物理的にムリ)。よって、この"Deep Purple Live In Japan"もおそらくイアン・ペイスのドラムをL-Rでまとめ、オーディエンスがL-Rステレオで計4Tr、あとはステージ下手のジョン・ロードのオルガンと上手のリッチーのギター、ロジャー・グローバーのベース、イアン・ギランのヴォーカル、で計8Tr。それをツアーの間中回し続け、演奏やレスポンスの良かった公演から採用テイクが選ばれる、ってのが王道パターン。で、ミュージシャンが「どうしても直したい!」というミス・テイクやノイズなどの事故対処で、後日スタジオでの"録り直し"が行われることもある。何枚かライヴ盤を発表しているDeep Purpleでは、ステージ上で激しいパフォーマンスを繰り広げるリッチーの録り直し率が高い(笑)。ちなみに当然同期なんぞ使っていない当時の状況で、ドラムの録り直しなんざ不可能。よって、1度しかない本番でやり直しのきかない2trにまとめるエンジニアのセンスも重要、Yさんの言う通り当時者達の"1発勝負"のパフォーマンスが最重要だったんだ。.....でもま、本来それが"ライヴ"なんだけどね!。なので、この歴史に残る名盤がOTARIの8trレコーダーで録られた可能性ってのはけっこう高いんじゃないかな。

OTARI MX5050 8trレコーダー

さて、ついでに紹介したいのが、そのDeep Purpleを脱退したリッチーが結成したバンド、Rainbowの'76年のライヴ盤、"On Stage"。
ジャケットはDeep Purpleと同一編成(上手にギター、下手にキーボードの5人編成)のバンドの、こちらは客席目線側からのショット。で、実は楽器の定位もジャケット通り。つまりこっちはDeep Purple Live In Japanと逆のギターが右側、キーボードが左側。同じ武道館で同じギタリスト、同じプロデューサーでなんか興味深い対照的な作りだ。
.....ところがこの"On Stage"には裏話があって、なんと日本公演を唱っておきながら、ド頭の曲から実はドイツ公演のテイクが使われたりしてるんだ!。なんと別々に発売になっている武道館公演の"On Stage"と"Live In Germany"はギター以外のパートがミスまでそっくり、という(笑)。
ま、良いテイクを選んで行ったらそうなったんだろうけど、当事者の日本人としては少々複雑な心境だったな.....。
ま、それ以外にもオレがこの業界に入ってから、多くの有名なライヴ・アルバムの隠された逸話を知ることとなった。とは言え、真偽はともかく中には夢もナニもないようなハナシもあるので、ココではあんまり言わんとこーっと(爆)。

Rainbow "On Stage"(1977)

で、ミックス・エンジニアとしてのオレが手掛けるライヴ盤はと言うと.....これがまた完璧にバーチの影響受けまくりの定位!。自分が実際に見てないライヴの場合でも、確実に写真かビデオを借りて立ち位置を再現する。ギタリストの上手/下手、ドラム・キットのパンニングは言うに及ばず、ホーン隊がいればペット/ボーン/サックスの並び通り、弦なら左からバイオリン/ビオラ/チェロ、複数のコーラス隊もステージ上の並び通り。当然それによって左右どっちかにアンサンブルが偏ってしまったりもするけど、そこはプロ、なんとかする(苦笑)。もちろんベースが下手側にいるからって左に振られたりすることはないけど、可能な限りの立ち位置再現がオレのライヴ・ミックスの基本。
上手側のギタリストがソロ・パートで1歩前に出たりすると、上手側のオーディンスの歓声をちょっと上げたりするし、バンドが客席を分割してコール&レスポンスなんかやったら一緒になって両サイドを盛り上げるよ!。細かいところではドラム・ソロの時だけ曲中よりもタムの定位が広くなるとか、ホールのサイズに合わせてずっと1回リピートのディレイをそっと鳴らしておく、とかね。

オレの基本的なライヴ・ミックスに於ける各パートの定位図。あくまでも客席からステージを観たメンバーの立ち位置に準じたもの

ま、肝心なのはそのミックスを聴いて「ああ、こんな感じで演ってんのかな」と想像力を掻き立てられること。オレがDeep PurpleやRainbowを、それこそレコード・ジャケット以外じゃ滅多に見られない貴重なライヴ写真なんかを眺めながらステージ上/ホール全体をイメージしてた時の感覚を今でも大切にしているんだ。
で、最近ライヴ・ミックスの仕事が来ると、音だけじゃなく映像込みのライヴDVDだったりすることが多いので、この立ち位置再現は尚更重要。観た目と聴いた時とが逆だったりするのは最悪。よって、そのライヴの映像もじっくり見せて貰う。そう言う意味じゃ昔と逆で、イメージ以前に"リアリティ"が重要、とも言える。

最後に、参考までにオレの最近のライヴ・ミックスの中から、丁度上手にギター/下手にキーボード、という編成のバンドがあったのでちょこっと聴いてみて。で、良かったら"Deep Purple Live In Japan"や"Rainbow On Stage"も機会があったら聴き比べてみて欲しいな!。



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最終更新時間:
2011年10月04日21時52分