audioleaf WEB MAGAZINE

No.17・みっくちゅ・その4

2011年2月15日21時24分 in コラム

さあ、ドラム・キットのサウンド・メイキングもだんだんとまとまり、パーカッションも入って徐々に曲の母体となるリズム・パートが見えて来た"風の唄"。既に今の状態でももはや4本のShure-SM58だけで録ったとは思えないクオリティだけどね!。でもまだまだ。ついでに、我々プロでも、例えばドラム・キットの音作り/フェーダー・バランスが終って次に進んでも、どうしてもそこでまた全体のためにドラム・キットに戻って来たりすることになる。そうしないと各楽器/パートのバランスがチグハグになってしまうからだけど、反対に戻ってばかりでいつまでも決められないと、ミックスは永遠に終らない。なのでミックスする人は、決断力も重要な要素。
で、今回のお題はそのドラム・キットのバランスに大きく影響を及ぼす最初の難しいパート、ベースの登場だ。ちなみにオレはミックス時、メンバーやプロデューサーに「世の中はベースを中心に回っている」と言うほど、ベースというパートを重要視している。ちなみに、オレと言うミュージシャンのスタートもベーシストだった。



さて、ひとことでベース、と言ってもこれまたそれなりに種類があるワケだけど、実はエレクトリック・ベースのシェアって、相当"プレベ"、つまりプレシジョン・ベースに偏ってるのが現実。ギターはストラト、レス・ポール、テレキャス、更にセミアコだSGだVだPRSだ~.....と種類も使い道も様々。ところが"ベース"と言えばFenderのPrecision Bass、及びそのコピー・モデルがダントツの人気No.1。オレ自身は普段はスペクター・タイプでPJ仕様のピック・アップが付いてるベースを使ってるんだけど、この曲はあえてスタンダードなプレベで録った。
ではココで特別企画、「ちょっと色んなベースを紹介してみよう」のコーナ~。



Precision Bass
1951年にレオ・フェンダーにより誕生した、エレクトリック・ベース界の標準機。シンプルでスマートなルックスと独特の野太いサウンドで人気No.1。ちなみに何で"プレシジョン(正確)"って言うのかっつーと、それまでのベースには存在しなかった"フレット"がネックに打たれ、正確なポジショニング/演奏が可能になったからなんだそう。

Jazz Bass
こちらは同じフェンダーの、1960年デビューのモデル。PBに比べて斜めのボディ・シェイプと、何より2ピック・アップによってPBよりも多彩な音作りが出来るのが特徴。サウンドの印象としてはPBよりも丸く、ウッド・ベースに近いアプローチが可能。ストラップ使用で立って弾くにはバランスがなかなか難しのもあり、ロック系では少数派。

Musicman Stingray
アンプなどでも有名なブランド、ミュージックマン社(現在はアーニー・ボール社)の1976年発表のヒット作。これも元ネタはレオ・フェンダーで、ハムバッカー・ピック・アップによる中低域のパワー感が魅力。ルックスは丸いピック・ガードと3+1スタイルのペグ/ヘッドが個性的で、ユーザーはロック系からファンク、ジャズまで幅広い。



Gibson EB
フェンダーのライバル、ギブソン社のベースの代名詞、1961年作。見ての通りギターの"SG"のベース版で、後継モデルはズバリ"SGベース"と言う。フロントに大/リアに小、のふたつのハムバッカー・ピック・アップを搭載、重いサウンドが特徴。フェンダーに比べてお値段もけっこうなモノなのでさほど見かけないが、持ってると確実に尊敬される1本。

Gibson Thunderbird
同じくギブソン社の、こちらはFirebirdのベース版、1963年発表。どちらも自動車デザイナー、レイモンド・ディートリックのデザインで、その豪快なルックスからロック系のベーシストに人気。反対にロック以外にはあまり適しておらず、チョッパーしようにもサスティンがなく不向き。ストラップを目一杯伸ばし、直立で膝下で弾くくらいがカッコイイ。

Rickenbacker 4001
リッケンは世界初のエレキ・ギター/ベース・メーカー。エレクトリック・ベースの"4000シリーズ"はポール・マッカートニーが使用したことで世界的人気に。重くて持ちづらいのが難しい楽器だが、オリジナルのシングル・コイル・ピック・アップは他のどれんなものにも似てない独特のエッヂ感を持ち、聞けば「リッケンのベースだ」と解るのが特徴。

.....ま、もちろん他にもいっぱいあるんだけど、プレベのシェアはマジで凄いよね。1ピック・アップなので音作りなんか出来ないに等しいんだけど、それが多分「使いやすさ」にも繋がってるんだろう。で、そんな理由でエンジニアにとってもヒジョーに好都合な1本。
で、今回普通のプレベを使ったもうひとつの理由。逆に言うと、最近多い5弦/6弦のベースではなく、あえてスタンダードな4弦のベースで、Eより下はないノーマル・チューニング。で、"風の唄"はキーがGで、CやDも多用する。つまり、ハイ・ポジションでプレイしてもボトム感を損なわない音作り、を目指してみよう。



"風の唄"のベース録りに関してはNo.7"while my guitar gently weeps"の回で紹介した通り、オレの所有する3万円くらいの国産プレベをヘッド・アンプにダイレクトで繋ぎ、完全な"直"で録った。それをPro Tools上でEQ、コンプ、更にSans Amp、という組み合わせでモニターする、というもの。つまり録り音は完全なダイレクトで、エフェクター類は一切挟まない。
これは何故かと言うと、例えば録りの時点でベーシストが完全に満足出来るような音作りをしてしまうとけっこう取り返しがつかなくなることが多いから。特に歪み具合やボトム感は、ミックス時に出来上がったドラム・キットに合わせてやるのが必須で、後から代えられない程のサウンドを作ってしまうと場合によっては邪魔になってしまったりもする。そういう意味じゃ3リズムの中で最も周りに合わせなきゃならない不憫なパートと言えなくもないけど、反対にあとからどうにでもなるベースはミックス時の方向性を左右する非常に重要な楽器でもある。
なので、多くのケースではライン直と、アンプ/キャビネットにマイクを立てた2系統を録音するわけだ。ネタばらし的なことを言えば、エンジニアがミックスで加工しやすくするために必要なライン録りと、ベーシスト本人が納得するサウンドを目指したアンプ録り、という区別になる。
.....で、オレは実はミックスで大抵ラインしか使わない、というナイショ話をしたわけだ。重たい思いをしてAmpeg運んで来る皆、ゴメンよ(爆)。
で、ミックス時にオレが使用するプラグ・インは、例のモニターと同じ。Comp、EQ、そしてSans Ampだ。


"風の唄"、ベース・パートの録り音波形。明らかに小さい部分がミュートで静か目に弾くA~Bメロ、明らかにデカイのがストロークっぽくワイルドにピッキングするサビ

ま、若干"わざと"な感はあるが、実際この楽曲の作者でありプレイヤーでありアレンジャーであるオレ自身がこのダイナミック・レンジを必要としてて、でもこれだけボリュームに差があるとミックス的にはちょっと困る、というレベル。で、ソイツを解決してくれるのがCompressorだ。


オレ好みの"グルーヴィー・コンプ"のセッティングは、速いアタック(1.0ms)+遅いリリース(1.0s)。スレッショルドはもちろんドラムと合わせた"聴こえ"に合わせて変えるが、せっかくのダイナミック・レンジを活かすためあまり深くは突っ込まない

オレ自身、ベース・プレイヤーとしてはけっこう"アフター"なタイプ。で、更にコンプをこのセッティングにすることでアタック直後のサスティンがグッと聴こえて来て、更にアフターに感じる。もちろん曲調、ドラマー、好みで全然違っては来るけど、その揺れ感はとても大切。なのでオレはタイミング合わせのクオンタイズは殆どしない。けっこうガチガチにタイミング合わせることが大前提の人を良く見かけるけど、逆にいじらずにリズム隊をコンプでタイム・コントロールしてごらん。ジャストなんかより全然カッコイイグルーヴが生まれたりするよ!。


上の波形が長田君のバス・ドラム、下がオレのベース。.....見ての通りピッタリとは程遠いけど、オレはエディットしない。キックの後に絡み付くようなアフター感をコンプでコントロールし、ノリを聴かせる

で、オレの場合大事なのがSans Amp。録りではかけず、こうしてミックスでのドラムの音決めがある程度固まった時点で登場。ポイントはBuzzとCrunchで、ここで出す"ドーン"(低音)と"ガリガリ"(高音)が必要なだけの"アンプ感"を演出してくれる。もちろんSansナシ、ってのもアリなんだけど、またプレベとSans Ampが良くマッチするんだな。


オレのお気に入りのSans Ampのセッティング。Buzz目一杯でローを稼ぎ、Crunchもフルでエッヂを立てる

これでまだ足らなければEQ登場、って感じなんだけど、殆ど補正用だと思って良い。ちなみにベースEQでのオイシイポイント、ってのは
高音=6~8kHz
中音=2~3kHz
低音=100Hz以下
が目安。所謂ベースの"ロー"ってのが40~80Hzくらいにいて、ここは最終的にオーディオ的にも重要な音域なので、「低域がモコモコする」とか言ってカットしないように。で、もしもその「モコモコ感」が気になる感じだったら、130~200Hzあたりに犯人がいる。
それと、ベーシストが良く言うのが「ラインが見える高域が欲しい」という表現。つまりドンシャリのドンばっかじゃなく、どのポジション/どんなメロディを弾いてるかが解りづらいのでトレブリーにして欲しい、というもの。これは2kHz近辺がキモ。このオーダーに対してはハイを上げてしまいがちだけど、完全に中域の仕事。で、これも反対に中低域(200Hz近辺)をカットしてやることで解決したりすることもある。つまり、避けなければいけないのは籠ったブーミーなサウンド、ということになる。


こちらは"風の唄"ベース・パート、録り音そのままの状態


こちらはSans Amp+Compressor。キックとの絡みがとても良い感じになった

.....ちゅうワケで、出来上がったドラム・キットに"合わせ"つつ、更にプレベの良いトコロを強調したベース・パートが完成~.....と言いつつ、便利なパートであるベース、まだまだギターやヴォーカル、全体像に合わせて変化する可能性が全然あったりする.....でも、お聴きの通りベースは楽曲の"中心"に位置してて、やっぱりオレは良く「世の中はベースを中心に回ってる」という表現を使う.....ま、その正しい意味はミックス完成時に解るよ!。


"風の唄"、3リズム・バランス

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kasetatsuya@bazooka
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最終更新時間:
2011年10月04日21時52分