audioleaf WEB MAGAZINE

No.18・Hey Mr. Bass Man

2011年3月29日20時10分 in コラム

まず初めにbazooka-studioを代表して、東北関東大震災で被災された全ての方々に、心からお見舞い申し上げます。誰も経験したことのない想定外の大災害、被災された皆さんが少しでも早く、通常通りの生活を取り戻せるよう、祈っています。頑張ろう!。
bazooka-studioは大丈夫。東京/新宿のビル地下2階にあるオレのスタジオ、room1964は全く無事で、今日も若き精鋭達と一緒に新たな音楽を創り出しているよ!。



さて、前回"風の唄"のベーシック・トラックのミックスでベースの在り方について触れたところ、こんなメールが。

HN:"Paul Gray命"さん(横浜)より
こんにちは。ベースの音質についてなのですが、一般的にいうディストーションやファズ以外に、どんなものがありますか。また、それらをミックスで行う場合、どんな方法が良いのでしょうか。


"Paul Gray命"さんありがとう。ところでPaul Gray(Slipknotのベーシスト/2010年没)は残念だった。オレも大ファンなんだ。"ALL HOPE IS GONE"は最高傑作だった。もうあの9人を見られないかと思うと本当に悲しいね。
.....で、この相談に出て来る「ディストーションやファズ」ってのは、もちろんギターのハナシじゃない。あくまでもベース・サウンドに関してのハナシ。そう、左右でブリブリに歪んだエレクトリック・ギターに挟まれて、ド真ん中に鎮座するベースにだって当然「歪み」という価値観は存在するし、何しろオレのミックスじゃあベースは歪んでるのが基本(爆)、1曲の中でもギター同様、クリア・サウンドからディストーション・パートまで使い分けることが出来るんだ。

で、まずは前述の「ディストーションやファズ」ってあたりの"ニュアンス"の話からして行こう。
例えば"Paul Gray命"さんがRoadrunner系のファンだとしたら(笑)、解りやすいところでKoRnのベーシスト、フィールディのお馴染みのサウンドはヘヴィなボトムとカリカリのエッヂ。これは実はクリアな方。で、Slipknotのポールは中域がギター程じゃないけどちょっと歪んだ"ファズ"的なサウンド。Cancer Batsってバンドのマイクってヤツは完全にギターと同じかそれ以上に歪んだオーヴァードライヴ・ベース。.....オレ個人的には重く、ピークでガリガリ聴こえる存在感のあるStone Sourのショーンあたりの音作りが大好き。
ただ、特にこのあたりのバンドは'90年代のギター・リフ至上主義時代、言い換えればギター・ソロがなく、イントロや間奏あたりは弦楽器隊の大ユニゾン大会が繰り広げられてる形態のバンドなので、ベースも敢えて意図的にギターに近づけた音作りが成されている、と言える。で、ドラムは逆にスッキリとクリアにミックスする.....'80年代にMETALLICAで始まった流行だね。
ちなみにRoadrunnerと言えば、'00年代初頭のCynyc、DEICIDE、OBTUARYあたりの日本盤は、実はオレがリ・マスタリングしてるんだ。で、その頃出逢ったNickelbackの"Silver Side Up"と言うアルバムが、エンジニアとしてのオレのフェバリットなんだな。.....おっと、ハナシが脱線し過ぎだぜ(笑)。
では、今度はRoadrunner系に限らず(笑)、歴史的に見て、時代を象徴する個性的なベース・サウンドを振り返ってみる。



本来、アタリマエだけどベースは歪んでいなかった。何故なら、それはウッド・ベースと言うアコースティック楽器が元だったからだ。それがエレクトリック・ベースとなり、バンドのギタリストがアンプのヴォリュームを上げ、それに合わせるようにベーシストもベース・アンプのヴォリュームを上げて行ったら勝手に音が割れた、がルーツなワケだ。
では、ロックの黎明期でそれを象徴する良い例となる作品を、年代ごとにひとつずつ紹介しよう。

'60年代を象徴するベース・サウンドは、ロックの歴史上とても有名な曲なので、聴いたことがあると言う人も多いと思うけど、The Whoと言うバンドの"My Generation"(1965年)。この曲でベーシストのジョン・エントウィッスルがドラム・ブレイクにギター・リフと掛け合いしているフレーズが、まさに'60年代の"ファズ・ベース"。これはアンプのヴォリュームを上げる、つまり"出力過多"によって起きている現象だけど、楽器に詳しくない人はまるでギター・ソロのように感じると思う。

続いて'70年代、プログレ・シーンをリードした"Yes"のオリジナル・メンバーでベーシストのクリス・スクワイアが独特のファズ・サウンドを聴かせていた。クリスはリッケンバッカー使いで、所謂"ドンシャリ"・サウンドの第一人者。ルート弾きはあまりせず、メイン・ヴォーカル同様にベースで"歌う"演奏スタイル。なので曲中では大抵ギターよりも目立っている。また、プログレと言うジャンルの特徴として、ベーシストにもソロ・パートが回って来ることが多く、固め/歪み目のサウンドの方がヌケが良かったんだ。代表的な曲は1971年発表のアルバム"こわれもの"に収録されている"Roundabout"。圧巻。

'80年代はギター・ヒーローの時代で、もちろん個性的なベーシストはいたけど、ベース・サウンドそのものが取り上げられることが少ない時代だった。そんな中、ヘヴィメタル・トリオ、Motorheadのヴォーカル/ベース、レミー・キルミスターはベーシストでありながら、やってることは極めてバッキング・ギターに近く、リッケンバッカーをマーシャル・アンプに突っ込んでオーヴァードライヴさせ、パワー・コード弾きをしていた。これはトリオ編成故に、ライヴでギター・ソロの間に音が薄くなるのを避けるために行ったのがルーツ。代表曲"Ace Of Spades"(1980年)のメイン・リフが最高。



'90年代の代表はご存知"レッチリ"こと、Red Hot Chili Peppersのベーシスト、フリー(マイケル・"フリー"・バルザリー)だ。ロック史に"ファンク・ロック"と言う表現を刻んだ立役者。何と言っても"Around The World"(1990年)のイントロが解りやすいだろう。それまでのファズ・ベースを完全に過去のものにした、思い切りのよい"ディストーション・ベース"。また、個人的にフリーはロックにスラップ(チョッパー)奏法を浸透させた第一人者だとも思う。サウンドも含めて、現在現役のミュージシャン(オレも含めて)に多大なる影響を及ぼして今尚現役。



.....21世紀には前述のように大勢いるから良いとして、我が日本、と言うかオレがもう10年以上一緒に仕事をさせて貰ってるベーシストをひとり、日本代表として紹介しよう。彼の名は沖井礼二(ex:Cymbals)。作曲家であると同時に日本のミスター・リッケンバッカー。.....フム、こうして考えると、少し歪んだくらいのサウンドを好むベーシストはやっぱりドンシャリのリッケンバッカーを好む傾向にあるな。彼と一緒に作って来たサウンドはオレ流のファズ・ベースの代名詞でもある。最新作はアイドル・グループ、Twinklestarsの"Dear Mr, Socrates"。アイドルなのにバックはオーバードライヴ!(笑)。

.....とまあ、独断と偏見で各年代別に紹介して来たけど、それぞれ是非検索なんかして断片的にでも聴いてみて欲しい。なんとなくその時間軸と合わせて、どうやってベース・サウンドが進化して来たかが解ると思うよ!。

さて、せっかくだからここで"風の唄"のベース・トラックを使ってベースを歪ませてみようか。ま、曲の作者としては正直あんまり歪んでなくて良いんだけどね(笑)。

まずはオリジナル、と言うか歪んでないヴァージョンを参考までに。




それではまず"ファズ・ベース"ヴァージョンから。使用するプラグ・インはオレのミックスではもう御馴染み、Sans Amp。PUNCHとCRUNCHを上げて行って、ピークでピリッとする程度でストップ。更にコンプで頭をツブす。どうせ歪みなので、スレッショルドはちょっと極端でも良いくらい。






Sans AmpとCompの設定値。DRIVEではなく、PUNCHとCRUNCHを使ってファズ・サウンドを作る。Compは通常よりやや深め

.....フムフム、意外に悪くナイな。そんなに派手じゃない曲/アレンジでも、オケ全体の中ではちょっと歪んでるくらいのベースが合うことも多い。この曲もサビに関してはこれくらいでもアリだな。
続いて、明らかな"ディストーション・ベース"。こちらはLINE6のAmp Farmを使って、キャビネットから大音量が鳴ってる感じをシミュレートしてみよう。選ぶのは"1959 Fender Bassman"、キャビネットは"Big Cab"の(off-axis)。オンよりも、ちょっと距離感がある方がリアルに聴こえるんだ。





LINE6のAmp Farm、1959 Fender Bassman。BASSはフル、MIDDLEは真ん中くらい、TREBLEは実はあまり上げると痛くなるので抑え目にし、PRESENCEでハイを作る。で、歪み具合はDRIVEを上げて行く

.....う~ん、ディストーション・ベースと言ったら、このくらいは欲しいところだね。曲には合わないけどさ(苦笑)。で、こうなると実は元データ、つまりベースの演奏そのものもとても重要になって来る。
どう言うことかと言うと、例えば今回みたいに録りで歪んでいないベースを後からミックス時に歪まそうとする際、当然録音時は歪んでいない音をモニターしながら弾いているので、ミュート感やフレット・ノイズみたいなものが目立って来るから。特にピックではなく指弾きだったりすると、演奏時のニュアンスを台無しにしてしまうことが良くあるので要注意。




例えば、同じピック弾きでもリアの方で弾いたものとフロント近くで弾いたものでは、録った後で歪ませて行った際に凄くニュアンスが変わる。具体的に言えば、フロントで弾いた時の方がトーンが甘く、丸い。で、丸い音は歪ませた時、実はあんまりカッコ良くならない




指弾きでも同じことが言えるが、実はこっちの方がタチが悪い。指で弾いたベースを歪ませるのはピック弾き以上にとても難しい

.....結果的に言えるのは、もしも最終的にベースを過度に歪ませる可能性/アイデアがあるのなら、録りの時点でモニターで歪みをシミュレーションしておくこと。近年はギターもベースも優秀なAmpシミュレーターがあるおかげでライン・サウンドのみで「後でどうにでもなる」状況を作ることが多いけど、後で過度にニュアンスの違うサウンドになってしまい、ミュージシャン的に「そんなら初めからそう言ってくれりゃそう言う風に演奏したのに」みたいなことも起こりがち。なので、ある程度の幅は持たせた上で、納得の行くサウンドで録る、と言うのも大切なこと。それは覚えておこう!。

Written by

名前:
kasetatsuya@bazooka
サイト:
http://www.kasetatsuya.com
最終更新時間:
2011年10月04日21時52分